長年、機能性材質の技術者として携わってきた観点から、各コーヒー器具の材質が持つ課題と、実用性・使いやすさに焦点を当て、CERAFILの開発を行いました


(下記をお読み頂く前にご理解いただきたいのは、私は下記の様々な商品からインスピレーションを得て、そこで感じる課題をCERAFILに生かし、「敬意を込めて、今までにない器具として新しい価値を提供したい」という気概を持って開発、製造に取り組んできた、ということです。


私も下記の器具をこれまでの人生でいくつも所有、愛用し、それぞれのメリットを生かして淹れられるコーヒーを愛飲してきました。

 

そのため、どの器具も素晴らしい特徴があり、使う人の好みや追求したい味によって、その良さを発揮していると理解しています)



①ペーパーフィルターの課題

~1908年にドイツの主婦・メリタ・ベンツ女史が偶然から生み出した世界的、歴史的発明です。

コーヒーが日常的、家庭的な飲料として世界的に普及した歴史を考えるうえで、紙の濾過が果たした役割は偉大なものです~

1. 時折生じる「紙臭さ」を消せない。
2. 紙臭さを消すための「湯通し」の作業が伴う。
3. コーヒーが巨大産業となった現代では、年間150万本の成木を伐採する環境の犠牲を伴う。
4. 買い忘れたらコーヒーを淹れられない。
5. 目が細かすぎて、アロマとオイルを十分に楽しめない場合がある。


②ネルフィルターの課題

~18世紀、フランスのブリキ職人が、スープストック(出汁)を濾し取る時に使うフランネル(布)を使ったことがきっかけで広まりました。それまでザルのようなカゴで濾過したり、煮干しのように煮出しており、ザラつきが当たり前だったコーヒーが、ネルの登場をきっかけに、一気に上流階級や商人、町民たちの間に広まりました~

1. 上質な味わいは素晴らしいが、洗浄が面倒。
2. プロでなければ、手入れの際に変色やカビが生じる場合がある。
3. 布で自立しないため、スタンドや専用ドリッパーが必要。
4. 紙よりはエコだが、やはり消耗品扱いされてしまう。


③金属フィルターの課題

~1780年にフランスで発売された網タイプのフィルターを発祥とし、1802年に特許を取得したBigginは、驚くことに日本の急須のような形状でした。しかし、この時代は濾過器具よりもコーヒーミルが大きく進化したため、豆の方が細かくなってしまい、人々がコーヒーのおいしさに目覚めるほど、濾過に求められる精度はどんどん高まっていきました。現代はスタイリッシュで優れた抽出能力を持つステンレスメッシュも増え、近年人気があるフィルターの一つです~

1. 紙より多くのオイルを抽出できるが、粉っぽさが出てしまう場合がある。
2. 透過力は優れているが、素材自体には何の機能性もない。
3. 漏れを防ぐ力がないため、メッシュやプラスチックで二層構造にしないと使用できず、素材単体での「一体化」は未だ不可能。
4. 繰り返し使えてエコだが、水やアロマに作用する素材独自の機能がない。


④セラミックの課題

~セラミック(陶磁器)を材料に用いたフィルターは、私が知る限り、日本で誕生しました。出汁を取る「hot pot」から始まり、ザルやカゴのような粗い網の時代を経て布が使用され、紙が普及し、コーヒーの歴史で生まれた初の「機能性」を持つフィルター素材が、コーヒーの歴史が浅く、欧米に比べて市場も小さい日本で誕生したのは素晴らしいことです。機能性材質であるセラミックに、「多孔質性」という現代のファインセラミックスの技術で生み出した作用を付加したことで、セラミック自体がフィルターとして使えるようになりました~

1. 紙、布、金属、プラスチックには持ちえない「遠赤外線」という機能を持ち、水の分子構造を緩めて口当たりをまろやかにし、コーヒーのアロマを引き立てて雑味を消し、本来の味を引き出す作用を持つがゆえに、目詰まりの問題が生じる場合がある。
2. 火を使わないと掃除や手入れができない場合があり、年々増えるIHの家では掃除できない。
3. 粗挽きしか楽しめず、コーヒーを楽しむ自由さが制限される場合がある。
4. やはりドリッパーが必要。
5. 手入れで加熱した後はヤケドの恐れがあり、また、冷却すると割れてしまう場合がある。
6. 目詰まりの手入れを損なうと抽出が遅くなったり、固着した古い豆の影響が残ったりして、コーヒー自体を楽しめなくなる場合がある。



そこでCERAFIL開発に当たって、念頭に置いたのは、以下の条件です


【10個のNO】


1. 未来は紙を節約して森林を守り、プラスチックをなくす「エコ」、「Zero Waste」の時代。何十億という人が愛するコーヒーの世界で、日本から環境保護のメッセージを発信するため、主要材料でも付属品としても、紙とプラスチックは絶対に使用しない


2. 欧米のGlampingやTiny House Movementが示すように、これからはアウトドアでコーヒーを楽しむ風潮が日本でも広がる。屋外でゴミをなくすため、電気を使わず、紙を使わず、ドリッパーやスタンドといった付属品は付けない。


3. IoTを駆使したAIコーヒーもこれから普及してくるが、コーヒーは単なる飲料ではなくコミュニケーションの潤滑油でもあるので、ドリップ自体が感謝や愛情を伝えるメッセージになるよう、あえて時代に逆行して、デジタル性や機械性をなくす。


4. サードウェーブと呼ばれるコーヒーの第三のトレンドの特徴は「豆や産地と対話するハンドドリップ」。豆の個性はアロマとオイルに表れるため、オイルを濾過しすぎるフィルターにはしない。


5. 今まで世界で誰もなしえなかった「素材単体でのフィルター・ドリッパー一体成型」を成し遂げるため、セラミック以外の原材料は使わない。


6. 全て人体に無害の材料のみで作り上げ、捨てても燃やしても有害物質が人体にも地球にも残らないようにする。


7. 目詰まりが起きるリスクを徹底的になくし、心配なくコーヒータイムを楽しんでもらえる器具を完成させる。


8. 機能性を追求するあまり、美観を損なってはいけない。


9. 美観を優先しすぎて、機能性に妥協してはいけない。


10. コーヒーを抽出したら仕事が終わるのではなく、コーヒーを飲んだ後でも、置いているだけで楽しく、上質な時間を引き立てる存在感を有しなければならない。


【10個のYES】


1. 紙よりオイルとアロマをより豊かに抽出すること。


2. ネルと金属より耐用年数が長く、エコであること。


3. ネルより、掃除と手入れが簡単であること。


4. 掃除や手入れに火や熱を使わなくて済むこと。


5. 水そのものを濾過しても変化が分かること。(コーヒーの99%は水)


6. 濾過機能を持つ材質で作り上げることで、ドリッパーの性能も併せ持つこと。


7. 手仕事の温かさが伝わるよう、ろくろ成型で仕上げ、工芸品の性格を持たせること。


8. 多孔質材質に世界で初めて加飾(色付け)を行い、美観を高めること。


9. 全数、窯出し時に即時バケツに入れて検品し、流量と割れを検査して出荷すること。


10. 買うこと、売ること、持つこと、使うこと、見せること、贈ること全てに幸せが伴うこと。



誰でも簡単に、美味しく、そして"一生モノ"としての出会いでありたい


試行錯誤を重ねること4年。

「あと一歩」という思いで窯入れし、出てきたセラフィルが無残に割れているのを見た時は、自分の力不足と材料への申し訳なさから、言葉を失ったことも一度や二度ではありません。

苦労をさらに重ねると、偶然、すごいものができました。
でも、完成度に安定性がありませんでした。
友人への個人的な贈り物としては良くても、商品にはなりません。
ましてや、「世界と戦える日本の職人謹製のコーヒー器具」など、夢のまた夢。

しかし、「一作さんのフィルターで飲んだコーヒーが忘れられない」、「絶対できるから、応援してるよ」、「郷土波佐見のため、何が何でも成し遂げてほしい」という多くの方の声に励まされ、2019年2月、ついにセラフィルが完成しました。

試しに外国語で動画を作ってもらい、海外に発信すると、途端に香港やウィーン、アムステルダム、ケープタウン、クアラルンプールから注文が入り、それを見た東京や広島、北九州のプロの焙煎士やバリスタからも「ぜひ使ってみたい」という連絡が来るようになりました。

売り方や話し方は、不器用な職人ですから、正直、セラフィルが完成した時は、「こだわりすぎて、もしかして、人に伝わらないんじゃなかろうか」という思いもあったんです。

でも、日本、そして世界には、私の表現した技術とそこに込めた想いを受け止めてくれた方々がいたのです。

コーヒーの99%は水であり、水がおいしくなければコーヒー豆は本領を発揮できないことを。
お茶がカテキン、テアニン、タンニンなどで複雑精妙な味のハーモニーを醸し出すように、コーヒーもオイルの中に豊かな風味を含み、それがもっと引き出されるべきであることを。
ブームで盛り上がり、スタイルを楽しんでも、もはや、環境を犠牲にはしてはいけないことを。
人気器具の模倣品ばかりで市場が飽和しては、良い道具を作る職人が犠牲になることを。
茶道を生み出した日本人は、コーヒーでも世界をアッと言わせられることを。

 

プロの方に理解され、支持していただくのは大変光栄なことです。

 

そして、材質の細かい技術やコーヒーの詳しい知識がなくても、セラフィルを使って「美味しい!」とただ感じてもらえれば、この上ない喜びです。

 

「セラフィルで淹れたコーヒーが好き」

 

そう感じてもらえる方が、日本・世界と数多くいらっしゃる日がくるように、日々丹念に制作いたします。